軽薄で軽率、軽快にしてポップ -映画『まなみ100%』ライナーノーツ-

update at 2023/10/05

 川北ゆめきという男との出会いは2021年春のある現場でのこと。自分が助監督で彼がメイキングという立場だった。映画祭で作品が入選したり、音楽と映画の祭典・MOOSIC LABで作品を発表していたりと、新進気鋭という言葉がピッタリな若者だなぁと思ったことをよく憶えている。思ったことは何でも口にして、こいつちょっとネジ飛んでんなぁと思ったことも含め。

 

 それから半年後、川北ゆめきから連絡が来た。「今度ぼくが撮る新作で助監督をしてくれませんか?」と。予算規模に関わらず、こうやって現場で苦楽を共にした戦友から声がかかるのは嬉しいものだ。ましてや今後の日本映画界を担うであろう(推測)前途ある若者が勝負作をつくるって言うんだから、自分なんかで良ければ何とか力になってあげたい。「一回会ってお話しましょう」と、僕と川北ゆめきは新宿のカフェで会うことにした。手渡された企画書の表紙には大きく『まなみちゃん(仮)』と書かれていた。その企画書と川北ゆめきが熱心に伝えてくる映画の内容は、川北ゆめきの自伝的なものだった。高校時代に出会った「まなみちゃん」という女の子のことを十年来ずっと想い続けているのに、その想いがずっと報われない男の子の物語だった。一途で眩しい青春映画になりそうな香りがした。川北ゆめきとはだいぶ年齢は離れているが、恋をすることの尊さ、誰かを想い続けることの難しさや儚さを、僕は誰よりも知っている(当社比)。そう、僕はそんな想いの大切さを伝えたくて映画づくりに携わり続けてきたんだ。川北ゆめきの説くことばに目頭を熱くしながら、僕はふとした疑問を彼にぶつけてみた。

 

 僕「(涙目で)じゃあ川北くんは今も彼女とかいないの?」

 川北ゆめき「いえ、セフレはいます」

 

彼の言葉を受けて僕は思った。「断ろう」と。

 

(中略)

 

 その半年後、なんやかんやで僕は川北ゆめき組『まなみ100%』の現場にいた。川北ゆめきの分身というべき主人公の「ボク」役は青木柚くん。柚くんとは『うみべの女の子』や『Love Will Tear Us Apart』で何度も大変な現場を乗り越えた仲だ。この映画が全身から放つ川北ゆめきの人間性、軽薄で軽率だけど軽快でポップなテンションをほぼ出ずっぱりで、愛すべきキャラクターとして昇華する柚くんの演技と佇まいは出会った頃よりさらに頼もしく感じた。この映画のために猛特訓をしてバク転をマスターした柚くんの身体性にも是非注目してほしい。まなみちゃん役に中村守里さん、瀬尾先輩役の伊藤万理華さんを始め、本当に若手のホープと言える俳優部が結集し、スタッフも川北ゆめきの同世代が集まり、自分みたいな中年はその若さゆえのノリや体力についていくのに必死だった。(と言いつつ、無理のない健康第一なスケジュールを頑張って組んでました)

 

 そうして出来上がった映画『まなみ100%』は先述した通り、軽薄で軽率だけど軽快でポップなテンションのまま駆け抜ける映画に仕上がっていました。川北ゆめきは本当に軽薄で軽率だけど、やっぱり映画を撮りたいという、それほどまでに築き上げてきた想いには、作家の持つどうしても譲れない大切な根拠があるんだよなと改めて実感した次第です。川北ゆめき監督は本作を撮ってだいぶ完全燃焼したっぽいですが、燃え尽きた彼が次にどんなモチーフに向かうのか僕はとても楽しみです。ちなみに彼は今でも彼なりに、まなみちゃんのことを想い続けているそうです。次は『まなみ200%』か!?

 

ぜひ映画館のスクリーンで楽しんでくださいね!!

 

映画『まなみ100%』

公式HP  https://manami100-movie.com/

全国劇場で上映中!!

パンクを超えたジャンクへ -映画『Love Will Tear Us Apart』ライナーノーツ-

update at 2023/08/29

 『Love Will Tear Us Apart』と表紙にでっかく記された脚本が送られてきたのは確か2021年の春ごろだったろうか。そのタイトルを見て、自分の中に芽生えた気持ちは「ついに来たか、宇賀那健一!」だった。

 

 宇賀那健一監督との付き合いは、彼が2015年に撮影した映画『黒い暴動❤』に僕が助監督として参加したのが始まりだった。ある北陸の地方都市でガングロギャル達がパラパラに情熱を燃やすという一風変わった青春映画だったのだが、The Clashの名曲「白い暴動(White Riot)」のタイトルを模していることといい、宇賀那健一という人間が内に秘めたパンク魂にシンパシーを感じたことはよく憶えている。

 

 Joy Division の名曲『Love Will Tear Us Apart』をまんま冠した本作のタイトルを見た時に「ついに来たか、宇賀那健一!」という想いが去来したと同時に「マジかよ」と思ったのもまた事実。ロックをこよなく愛する人間からしたらそのタイトルを自らの作品に名付けることの覚悟は相当なものだと僕は知っているからだ。恐る恐るその脚本のページをめくっていくと、そこには想像だにしない世界が拡がっていた。これはサスペンス?ホラー?ラブストーリー?コメディ?というジャンルを定義することがバカらしくなるぐらい、映画のオモチャ箱をひっくり返したような描写やアイデア、想いがぶちまけられていた。先ほど「パンク魂」という言葉を使ったが、これはもはや「ジャンク魂」と言っても差し支えない。これは助監督として現場で彼のそばに居続けてきた僕の個人的な見解だが、宇賀那監督は一本一本、映画をつくるごとにどんどん純粋になっている気がするのだ。映画づくりを志す者は誰だって表現欲だったり、承認欲求だったり、生活や経済のためだったり、いろんな欲望に駆り立てられるものだと思うが、今の宇賀那健一はとにかく映画をつくることを誰よりも楽しみ、そして映画がいかに自由で、私たちの想像力を広げる翼であることを伝えるために生きている。そんな気さえするのだ。

 

 撮影は2021年の真夏、パンデミックが何度目かの猛威を奮っている中で行われた。東京、栃木、茨城、神奈川、そして奄美大島と、ジャンルもロケ地も越境して、駆け抜けた一ヶ月。特殊造型やCG、アクションも満載で、監督の脳内で生まれた夢みたいな脚本を現場で実践していく身としては、只事ではいられなかった。大変なことばかりではあったけど、宇賀那健一が演出しながら、モニターを見ながら、ずっとクスクスと楽しそうで、気がついたらスタッフも出演者もつられて楽しそうに笑っていた。そう、それはまるで「ペナントレース やまだたいちの奇蹟」の太一菌のようだ!(誰もわからなそうな例え)

 

 かの名曲『Love Will Tear Us Apart』の歌詞にはこんな一節がある。  

“毎日のルーティンが面倒くさくて/志が低くなってくると/恨みが募るばかりで感情が高まっていかない/だから僕たちは方向性を変えて/異なる道を歩んでいく”

 

 時代や社会への反抗から生まれたパンクやロックの歴史。でもいつしか時間が彼らから若さを奪い、その衝動をやわらげていく、そんな歴史も僕らは何度も見てきた。おそらくそんな季節も経たのであろう宇賀那健一は「とにかく楽しもうぜ」的なジャンク・スピリッツで、混迷かつ退屈な世界を引き裂いていく。こんな愛があっても、こんな映画があってもいいじゃないか。僕もそんなふうに思えるおじさんになったよ。是非劇場のスクリーンで堪能してほしい。

 

 

映画『Love Will Tear Us Apart』

公式HP https://lwtua.jp/